遺留分侵害額請求権の時効について
遺言や贈与によって遺留分を侵害されても「遺留分侵害額請求」をすれば最低限の遺産をお金で取り戻せます。 ただし遺留分侵害額請求には「時効」が適用されるので要注意です。せっかく権利が認められても時効が成立すると一切遺留分を受け取れなくなってしまいます。
今回は遺留分侵害額請求権の「時効」について解説します。
目次
1.遺留分侵害額請求権の時効
遺留分侵害額請求権には、以下の2つの時効制度がもうけられています。
- 相続開始と遺留分を侵害する遺言や贈与を知ってから1年
- 相続開始から10年
以下でそれぞれについて、みていきましょう。
1-1.相続開始と遺留分を侵害する遺言や贈与を知ってから1年
1つ目の時効は「相続開始」と「遺留分を侵害する遺言や贈与」を知ってから「1年間」という期間制限です。
このように「相続開始と遺留分を侵害する遺言や贈与を知ったとき」という「時効期間のカウントを開始するタイミング」を「時効の起算点」といいます。時効の起算点は、時効が成立したかどうか判断するために非常に重要な要素なので、正しく把握する必要があります。
遺留分侵害額請求権の時効の起算点について
遺留分侵害額請求権の時効起算点について、詳しくみていきましょう。
「相続開始」とは、被相続人が死亡した事実です。
「遺留分を侵害する遺言や贈与」とは、不公平な遺言や高額な死因贈与、生前贈与のことです。
遺留分権利者がこれらの2つの事実を知ったときが遺留分侵害額請求権の時効の起算点です。そのときから何もせずに1年が経過すると、遺留分侵害額請求権に時効が成立して、遺留分の取り戻しを主張できなくなります。
2つの事実を把握しないと時効が進行しないので、「相続開始(被相続人の死亡)」を知っても、不公平な遺言や贈与について知らなければ遺留分侵害額請求権の1年の時効期間は進行しません。
また被相続人と疎遠で死亡した事実を知らない状態でも、やはり遺留分侵害額請求権の1年の時効期間は進行しません。
1-2.相続開始から10年
被相続人が死亡したことや不公平な遺言、贈与の事実を知らなくても、遺留分侵害額請求権が時効にかかってしまう可能性があります。それは「相続開始から10年」が経過したときです。
被相続人が死亡してから10年が経過すると、遺留分権利者の主観(相続開始や遺言、贈与について知っているかどうか)にかかわりなく、遺留分侵害額請求権が時効で失われてしまいます。
2.遺留分侵害額請求権の時効を止める方法
遺留分侵害額請求権の時効を止めるには、遺留分侵害額請求の意思表示が必要です。意思表示は遺留分の侵害者である受遺者や受贈者に対して行います。
具体的には「遺留分を請求します」「遺留分侵害額請求権を行使します」と伝えればその時点で遺留分侵害額請求権の時効が停止します。
意思表示の方法は法律上特に決められていないので、どのような方法で伝えてもかまいません。電話で「遺留分侵害額請求します」と言っても一応有効です。
ただし口頭など証拠が残らない方法で遺留分を請求すると、後に相手から「遺留分を請求されていないから遺留分侵害額請求権は時効によって消滅している」などと主張されるおそれが高くなります。
確実に遺留分侵害額請求を行った証拠を残すために「内容証明郵便」を利用しましょう。内容証明郵便には郵便局が確定日付を記入してくれますし、差出人の手元にも控えが残ります。このことで、確実に時効期間内に遺留分侵害額請求を行った証拠を残せます。
いきなり内容証明郵便を送ると相手が気分を害して遺留分返還の話し合いが難しくなりそうなときには、事前に相手に事情を伝えてから内容証明郵便を発送するのが良いでしょう。
遺留分侵害額請求の通知書の書き方がわからない場合や相手との交渉が不安な場合には、弁護士までご相談下さい。
3.遺留分侵害額請求権を行使してから実際にお金を回収するまでの時効
3-1.遺留分侵害額請求をした後も時効が適用される
遺留分侵害額請求を行うときには、「遺留分侵害額請求を行ってから実際に遺留分に相当するお金を返してもらうまでの時効」にも注意が必要です。遺留分侵害額請求をしたら、その後相手と交渉をして遺留分に相当するお金を払ってもらわねばなりません。相手がなかなかお金を払わないため長い時間が経過してしまったら、時効が成立して遺留分を取り戻せなくなる可能性があるのです。
遺留分侵害額請求権自体の時効は「相続開始と遺言・贈与を知ってから1年以内」に内容証明郵便を送れば止められますが、その後実際に遺留分を払ってもらうまでにも別途時効が適用されます。
遺留分侵害額請求権を行使してから実際に回収するまでの時効は、2020年3月31日までは「10年」です。2020年4月1日からは民法改正によって「5年」に短縮されます。
よって遺留分侵害額請求の内容証明郵便を送ったら、10年または5年以内に実際にお金を支払わせる必要があります。
遺留分侵害額請求権を行使した後の時効を止めるには、単に手紙などで督促するだけでは足りません。
相手に「遺留分侵害額を払います」と認めさせるか調停・訴訟等を起こす必要があります。
訴訟で支払い命令が確定したら、確定したときから10年間時効期間が延長されます。
3-2.遺留分減殺請求との違い
遺留分の請求後に時効が適用されるのは、相続法改正後の「遺留分侵害額請求」のケースです。
従前の「遺留分減殺請求」の場合、遺留分減殺請求を行った瞬間に遺産が返還されるので、「その後実際の取り戻すまでの時効」はありません。たとえば遺留分減殺請求をして不動産の一部を取り戻した場合、登記を行うのが11年後であってもかまいません。
遺留分減殺請求の場合には請求した瞬間に所有権を取得できたのに対し、遺留分侵害額請求の場合には請求しても「お金を請求する権利」しか取得できないからです。
お金を請求する権利を取得しても実際にお金を回収できていないので、時効までに回収する必要があります。
遺留分侵害額請求を行うときには、時効に注意が必要です。確実に遺留分を取り戻すため、お早めに弁護士までご相談下さい。