遺留分侵害額請求の方法について
遺言や死因贈与、生前贈与によって遺留分を侵害されたら「遺留分侵害額請求」できます。
ただ「具体的にどのように請求手続を進めたら良いのだろう?」と疑問を持つ方も多いですよね。
今回は遺留分侵害額請求の正しい手順を名古屋の弁護士が解説します。
目次
1.遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、侵害された「遺留分」を取り戻すための手続きです。
遺留分とは兄弟姉妹以外の法定相続人に認められる最低限の遺産取得分ですが、不公平な遺言や贈与によって遺留分を侵害されたら遺留分侵害額請求を行って「お金」で取り戻せます。
以前の民法では遺産そのものを取り戻す「遺留分減殺請求権」という権利が認められていましたが、2019年7月1日から改正民法が施行され、お金で取り戻す「遺留分侵害額請求権」に変更されました。
2.遺留分侵害額請求の手順
遺留分侵害額請求を行うときには、以下のように進めるとスムーズに進みます。
2-1.相手に遺留分の支払いをするよう求める
まずは相手(遺留分の侵害者)へ「遺留分を侵害されているので、侵害額を払ってください」と伝えるところから始めましょう。請求相手は遺言によって遺贈を受けた人や贈与を受けた人です。
時効が迫っていたら内容証明郵便を送る必要がありますが、そうでもない限りはいきなり内容証明郵便を送らない方が良いケースが多数です。内容証明郵便で請求すると、相手の態度が硬化して話し合いによる解決が難しくなってしまう可能性があるからです。
相手が兄弟などの親族の場合「一度会って話をしたい」などと言って都合の良い場所で会い、遺留分の支払いをしてほしい要望を伝えてみましょう。
2-2.内容証明郵便を送る
相手との折り合いが悪く話ができる状態ではない場合、話し合おうとしても相手が応じない場合、遺留分侵害額請求権の時効が成立しそうな場合には内容証明郵便で遺留分侵害額請求書を送りましょう。
内容証明郵便を使うと相手に強いプレッシャーをかけられるので、これまで無視されていたケースでも相手が真剣に対応する可能性があります。
また内容証明郵便を発送すると確実にその日に遺留分侵害額請求を行った証拠が残り、時効を確実に止めるのにも有効です。
2-3.遺留分の計算を行う
相手と遺留分侵害額の支払い方法について話し合うときには、遺留分の計算をしなければなりません。そのためには遺産全体の評価を行い、遺留分の割合をかけ算して侵害額がどの程度になっているかを正確に算定する必要があります。
預貯金や不動産、株式や動産類などたくさんの遺産があると、評価には大変な手間がかかります。また遺留分の割合についても素人判断では間違ってしまう危険が高くなります。
遺留分の計算方法に自信がない場合には、ミスが起こらないように弁護士にアドバイスを求めるよう、お勧めします。
また弁護士が計算した方が、相手としても納得しやすくなるでしょう。
2-4.遺留分侵害額の支払金額を決める
遺留分侵害額の金額が明らかになったとき、相手が全額支払うなら問題ありませんが「お金がない」などの理由で減額を求められるケースも少なくありません。
実際にいくらを返還してもらうのか、話し合って決定しましょう。
2-5.遺留分侵害額の支払い方法を決める
遺留分の支払金額が決まったら、次に支払い方法を決めます。
一括で支払うなら支払い方法(銀行振込など)と入金期限を設定しましょう。
分割払いを受け入れるなら、いつまでにいくらずつ入金するのか、具体的な分割の条件を定めます。支払い遅延を防止するため、分割金の支払いを2~3回分以上滞納したら残金を一括で請求できるとする「期限の利益喪失条項」を入れるようお勧めします。
2-6.合意書を作成して支払いを受ける
遺留分侵害の支払額や支払い方法についてお互いに合意ができたら、「遺留分支払いについての合意書」を作成しましょう。
被相続人の名称や遺留分侵害額として支払われるべき金額、支払い方法などを記載して、遺留分の請求者と侵害者が署名押印し、日付を入れます。同じものを2通作成し、お互いに1通ずつ保管しましょう。
なお分割払いにするケースでは合意書を「公正証書」にするようお勧めします。公正証書にしておけば、相手が将来支払い遅延を起こしたときにすぐに相手の預貯金や不動産、給料などを差し押さえて滞納分を回収できるからです。
公正証書を作成するときには公証役場に申し込んで作成を依頼する必要があります。相手の協力も必要なので、説得して公正証書の作成に応じさせましょう。
2-7.合意できなければ遺留分侵害額の請求調停を申し立てる
話し合っても遺留分の返還方法について合意できない場合には、家庭裁判所で「遺留分侵害額の請求調停」を申し立てます。調停では裁判所の調停委員を介して遺留分の支払い方法を話し合えます。直接話をするとお互いが感情的になって合意できないケースでも、調停委員を間にはさむと合意できる可能性が高くなりますし、調停委員から解決案の提示を受けられるケースもあります。
遺留分侵害額の請求調停は、相手の住所地を管轄する家庭裁判所で行います。調停申立書や遺産目録、被相続人の出生時から亡くなるまでのすべての戸籍謄本類などが必要になるので、書類を用意して申立てをしましょう。
2-8.調停が不成立になったら訴訟を提起する
調停で話し合っても遺留分侵害額の支払い方法について合意できない場合には、地方裁判所で遺留分侵害額請求訴訟を提起しましょう。訴訟は話し合いの手続きではないので、遺留分侵害の要件を満たしていたら裁判所が遺留分を計算して相手に侵害額の支払い命令を下してくれます。
判決が出ても相手が支払わない場合、相手の預貯金や不動産などの資産、給料などを差し押さえて遺留分侵害額を回収できます。
遺留分侵害額請求の際、当事者同士で話し合うと感情的になってトラブルに発展してしまうリスクが高くなります。当事務所の弁護士は遺留分の取り戻しを始めとした相続案件に積極的に取り組んでおり、経験もノウハウも蓄積しています。スムーズに遺留分の支払を受けたいなら是非、ご相談下さい。