遺留分の計算方法と具体例
不公平な内容の遺言書が残されていても、兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」が認められます。遺留分とは、配偶者や子ども、親などの相続人に認められる最低限の遺産取得分です。
遺言や贈与によって遺留分を侵害されても「遺留分侵害額請求」を行えば、最低限の遺産取得分は確保できます。
ただそのとき問題になるのが「遺留分の計算方法」です。具体的にいくらの金額を請求できるのかわからなければ話し合いも進められません。
今回は遺留分の計算方法や具体例を、名古屋の弁護士がわかりやすく解説します。
目次
1.遺留分の基本的な計算方法
遺留分は、遺産総額と遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与の合計額である「基礎財産」に対して「遺留分割合」をかけ算することによって算定します。
相続開始時に残された資産から負債や葬儀費用を差し引いた遺産総額と、遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与の合計額を「基礎財産」といいます。
この基礎財産に正しく「遺留分割合」をかけ算することで、個々の相続人の遺留分が算定されます。
このように、遺留分を計算するには「基礎財産の算定」と「遺留分割合の把握」の2ステップが必要です。
以下でそれぞれの方法をみていきましょう。
2.基礎財産の算定方法
2-1.遺産総額とは
遺留分計算の基礎となる「基礎財産」を明らかにするには、まずは「遺産総額」を明らかにしなければなりません。
遺産総額とは、相続開始時に残されていた財産の総額です。現金、預貯金、車や不動産、株式やゴルフ会員権などの財産の合計額から負債総額を差し引いた金額です。
不動産など資産の場合「評価」を行って金銭的な価値を明らかにする必要があります。
また借金などの負債や葬儀費用を差し引きます。
このように「すべてのプラスの遺産額-すべてのマイナスの遺産額-葬儀費用」を「遺産総額」とします。
2-2.遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与とは
遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与が行われた場合には、生前贈与された財産額も遺留分請求の基礎財産に算入しなければなりません。
遺留分侵害額請求の対象となる生前贈与は以下の2種類です。
- 死亡前1年以内に行われた生前贈与
- 特別受益に該当する生前贈与
特別受益になるのは、「法定相続人に対し、相続開始前10年以内に行われた生前贈与」です。たとえば父親が死亡する5年前に長男に対し不動産を与えた場合、その不動産は特別受益となります。
これらの生前贈与財産についても評価を行い、遺留分計算の基礎財産に含めます。
3.遺留分割合の算定方法
基礎財産を把握できたら、次に「遺留分割合」を明らかにしなければなりません。
遺留分割合を計算するときには、以下の2段階のステップを踏む必要があります。
- 全体的な遺留分を算定する
- 個別の遺留分を計算する
それぞれみていきましょう。
3-1.全体的な遺留分を計算する
遺留分計算の際にはまず「全体的な遺留分」を明らかにする必要があります。全体的な遺留分とは「そのケースで何割の遺留分が認められるか」という割合です。法律的には「総体的遺留分」といいます。
全体的な遺留分は、相続人によって異なります。
- 親などの直系尊属のみが相続人…3分の1
両親、祖父母、曾祖父母などの直系尊属だけが相続人の場合、遺留分の全体割合は基礎財産の3分の1になります。 - それ以外のケース…2分の1
相続人に配偶者や子ども、孫などの「直系尊属以外の人」が含まれている場合、遺留分の全体割合は2分の1となります。
3-2.個別の遺留分を計算する
遺留分の全体的な割合が明らかになったら、その割合に「個々の法定相続人の法定相続分」をかけ算します。そうして算出された割合が「個別的な遺留分割合」です。
個別的遺留分割合は、ケースによって異なります。
たとえば配偶者と2人の子どもが相続人になる場合の個別的遺留分は、以下の通りです。
総体的遺留分は2分の1
配偶者の個別的遺留分…2分の1×2分の1=4分の1
子ども1人1人の個別的遺留分…2分の1×4分の1=8分の1ずつ
以下でわかりやすく個別的遺留分の一覧表を示しますので、実際の遺留分請求の際に参考にしてみてください。
3-3.個別的遺留分の一覧表
配偶者 | 子ども1人あたり | 親1人あたり | |
---|---|---|---|
配偶者のみ | 2分の1 | ||
配偶者と子ども1人 | 4分の1 | 4分の1 | |
配偶者と子ども2人 | 4分の1 | 8分の1ずつ | |
子ども1人 | 2分の1 | ||
子ども2人 | 4分の1ずつ | ||
片親と配偶者 | 3分の1 | 6分の1 | |
両親と配偶者 | 3分の1 | 12分の1ずつ | |
片親のみ | 3分の1 | ||
両親 | 6分の1 |
4.遺留分の計算例
遺留分の計算方法についての具体例を示します。
4-1.配偶者と2人の子どもが相続人、長男へすべての財産が遺贈されたケース
プラスの遺産が5,000万円、負債が1,000万円あり、配偶者と2人の子ども(長男と次男)が法定相続人で長男にすべての遺産が遺贈されたケースを考えてみましょう。
この場合、遺留分算定の基礎財産は5,000万円-1,000万円=4,000万円です。
配偶者と子ども達それぞれの遺留分割合は以下の通りです。
配偶者…4分の1
子ども達…8分の1ずつ
配偶者に認められる遺留分は4,000万円×4分の1=1,000万円
子ども達それぞれに認められる遺留分は4,000万円×8分の1=500万円ずつとなります。
配偶者は長男に対して1,000万円の遺留分侵害額の支払いを求めることができ、次男は兄に対して500万円の遺留分侵害額の支払いを求められます。
4-2.両親が相続人、内縁の妻へすべての遺産が遺贈されたケース
両親が法定相続人でプラスの遺産が3,500万円、負債が500万円、内縁の妻へすべての遺産が遺贈されたケースを考えてみましょう。
この場合、遺留分請求の基礎財産は3,500万円-500万円=3,000万円です。
両親の遺留分割合は6分の1ずつとなります。
よって両親に認められる遺留分は3,000万円×6分の1=500万円ずつです。
両親はそれぞれ内縁の妻に対し、500万円ずつの遺留分侵害額請求を行うことが可能です。
遺留分侵害額請求をするとき、まずは遺留分侵害額を正確に計算しなければなりません。
そのためには遺産の適正な評価と基礎財産、遺留分割合に関する正しい法的知識が必須です。
慣れない方が自己判断で進めると間違ってしまうリスクも高くなるので、弁護士までご相談下さい。