相続放棄を検討している方へ
相続人の立場になっても、必ずしも遺産を相続しなければならないとは限りません。
「相続放棄」をすれば、はじめから相続人ではなかったことになるので一切の相続を避けられます。
- 借金を相続してしまった
- 家や事業を承継する兄に遺産を集中させたい
- 父母が離婚しており、父とは生前ほとんど関わりがなかったので、遺産は要らない
上記のような場合、相続放棄すればご希望を実現できる可能性が高くなります。
今回は相続放棄に関する基本知識やよくある誤解、注意点について弁護士が解説します。
目次
1.相続放棄とは
相続放棄とは、一切の資産も負債も相続せず「はじめから相続人でなかった」状態になることです。
子どもや配偶者などの「法定相続人」は、故人が死亡すると自動的に遺産相続します。
しかし借金などが残されていて「相続したくない」ケースもあるでしょう。そんなときには「相続放棄」をすると、はじめから相続人ではなかったことになるので、相続を避けられます。
相続放棄したら、代襲相続も発生しません。たとえば子どもが相続放棄した場合、子どもの子どもである孫が相続することもないので、「自分が相続放棄したら子どもに借金返済の負担が及ぶかも」という心配も不要です。
遺産相続に関するさまざまなトラブルから解放されるには、相続放棄が有効といえるでしょう。
2.相続放棄に関してよくある誤解
相続放棄については、以下のように誤解されているケースが多いので注意してください。
2-1.家庭裁判所での手続きが必要
相続放棄するには、家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければなりません。家庭裁判所で審理が済み申述が「受理」されたとき、はじめて相続放棄の効果が発生します。
一般では、相続人同士が話し合って一部の相続人が「一切相続しません」などと書き入れた書面を作成し、それによって「相続放棄できた」と考えられているケースがありますが、それでは相続放棄の効果は発生しません。
相続人の立場を免れたい場合、必ず期限内に故人の住所地を管轄する家庭裁判所へと「相続放棄の申述書」を提出する必要があります。
2-2.相続放棄は一人でもできる
「相続放棄は相続人全員でしなければならない」「相続放棄するときには他の相続人に知らせなければならない、他の相続人の承諾が必要」などと思われているケースもありますが、これらも誤解です。
相続放棄は、各相続人が単独でできます。他の相続人に知らせる必要もなく、同意も不要です。自分が相続したくなければ、他の相続人の動向とは無関係に家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしましょう。そうすれば、相続人の立場から離れて負債などの相続を避けられます。
2-3.生前の相続放棄はできない
ときどき「生前に相続放棄させるにはどうしたら良いですか?」とご相談を受ける機会がありますが、生前の相続放棄はできません。
相続放棄するときには、あくまで「死後」に相続人本人が自分の意思で家庭裁判所に「相続放棄の申述」をして受理される必要があります。
被相続人が特定の相続人に遺産相続させたくない場合「遺言書」によって対応する必要があります。また遺言書を残しても、兄弟姉妹以外の法定相続人の「遺留分」を奪うことはできません。
生前に遺留分放棄させられるケースは限られるので、遺留分放棄させられないケースでは最低限の遺留分を遺言によって残し、後は相続させたい相続人に財産を残すなどの対応をとりましょう。
ケースによっては相続人の廃除ができる可能性もあります。
3.相続放棄をお勧めする人
以下のような状況にある方は、ぜひ相続放棄を検討してみてください。
3-1.多額の相続債務を相続してしまった
被相続人が多額の借金をしていたり滞納税が発生したりすると、相続人にその負担が及びます。
資産もたくさん残されていて資産超過であれば相続債務を支払っても手元に財産が残りますが、債務超過の場合、相続人が自腹で相続債務を払わねばなりません。
負債を相続したくないなら相続放棄をすべきといえます。
3-2.一部の相続人に遺産を集中させたい
兄が事業を承継するので事業用の資産を兄に相続させたいケースなど、一部の相続人に遺産を集中させたい事情があるなら相続放棄が有効です。
特に事業に関する負債が存在する場合、他の相続人が相続放棄しないと後継者以外の相続人にも負債の返済義務が及んでしまいます。
3-3.遺産に関心がない、遺産トラブルに巻き込まれたくない
前婚の際の子どもなどで長年故人とほとんどかかわりがなかったケースなどでは、遺産に全く関心をもたないケースもあるでしょう。そのようなときには相続放棄すると遺産トラブルに巻き込まれずに済みます。
4.相続放棄の注意点
相続放棄を検討するとき、以下のような点に注意が必要です。
4-1.相続放棄しても財産管理義務が発生するケースがある
相続放棄をしたら一切の遺産トラブルから解放されると思われているケースがありますが、必ずしもそうとは限りません。
全員が相続放棄した場合、相続放棄者には「相続財産の管理義務」が残ります。
自分の財産と同等の注意をもって財産管理をしなければならず、適切に財産管理しなかったために他人に損害を与えたら、相続放棄者が損害賠償しなければならない可能性もあります。
相続放棄者が相続財産の管理義務を免れるには、家庭裁判所で「相続財産管理人」を選任しなければなりません。
4-2.相続放棄には期限がある
相続放棄には「期限」があります。
基本的には相続開始を知ってから3か月間しか相続放棄の申述が認められません。この3か月を「熟慮期間」といいます。
熟慮期間を過ぎると相続放棄が認められなくなり、負債も含めて全部相続せざるを得なくなる可能性が高まります。
「相続放棄しようかな」と少しでも考えておられるなら、早期に対応を進めましょう。
当事務所では遺産相続案件に力を入れています。ご本人が「熟慮期間を過ぎた」と思っておられた事案でも、弁護士が状況を精査することで相続放棄が受理されたケースがあります。
名古屋で相続放棄をご検討であれば、お早めにご相談下さい。