相続放棄のメリットとデメリット

相続放棄をすると「借金を相続せずに済む」ことが知られていますが、他にもいくつかメリットがあります。また良いことだけではなくデメリットもあるので、正しく理解した上で手続きを進めましょう。

今回は相続放棄のメリットとデメリットを名古屋の弁護士が解説します。

1.相続放棄のメリット

相続放棄には以下のようなメリットがあります。

1-1.負債を相続しない

1番に挙げられるメリットは「負債を相続しない」ことです。
借金や未払い家賃、滞納税や保険料などの負債はすべて相続の対象となるため、相続人が単純承認したら支払いをしなければなりません。借金を支払えなければ相続人自身が自己破産しなければならない状況も発生しますし、税金などは自己破産しても免除されないので必ず支払わねばなりません。

相続放棄すれば一切の負債を承継しないので、借金だけではなく滞納税や保険料などの「債務整理でも解決できない負債」まですべて免れることが可能です。

1-2.遺産分割トラブルにかかわらずに済む

遺産相続が発生すると、相続人間で熾烈なトラブルとなるケースが少なくありません。家庭裁判所における遺産分割調停、審判にもつれ込んで親族同士が3年、5年といがみ合い、絶縁状態となる事例も現実に多数あります。
相続放棄をしてしまえば、そういったトラブルに巻き込まれず平穏に毎日を過ごせます。

1-3.遺産相続の手間から解放される

遺産相続時には、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しなどの手続きが必要です。不動産を相続したら、その後管理の手間や固定資産税の支払いも発生します。
相続放棄すればこうした遺産相続の手続きや管理、コストの負担から解放されます。

1-4.子どもや孫にも迷惑をかけずに済む

共有不動産などの面倒な遺産、使い途のない古家などの遺産を相続すると、将来自分が死亡したときに子ども達に相続させる結果となって負担をかけてしまいます。
相続放棄すればそういった面倒な遺産を相続しないので、将来子どもに迷惑をかける心配がありません。
また相続放棄すると「代襲相続」も起こらないので、自分の代わりに子どもが相続人になる心配も不要です。

1-5.特定の人に遺産を集中させることが可能

事業承継のケースなどでは、後継者に遺産を集中させたいケースがあるものです。特に事業に関する負債がある場合には、相続放棄をしないと後継者に負債を集中させることができません。

後継者以外のすべての相続人が相続放棄すれば、すべての資産と負債を後継者が引き継いでスムーズに事業経営を開始できます。特定の人に遺産を集中させたいなら相続放棄は非常に有効な手段といえるでしょう。

2.相続放棄のデメリット、注意点

相続放棄には以下のようなデメリットと注意点があります。検討しているなら必ず頭に入れておきましょう。

2-1.資産も承継できない

相続放棄すると負債を承継せずに済みますが、資産も一切承継できません。相続開始後負債が発見されたので相続放棄したけれど、後に詳細に調べてみるとそれを上回る資産があったという場合、損をしてしまう可能性があります。

2-2.管理義務が残るケースがある

すべての相続人が相続放棄して相続人がいなくなったら、もともとの相続人には相続財産の管理義務が残ります。家庭裁判所で相続財産管理人を選任してその人に財産を引き渡すまで、自分の財産と同様の注意を払って財産を管理し続けなければなりません。
「相続放棄したら遺産と無関係になれる」とは限らないので要注意です。

2-3.撤回できない

相続放棄は一回行ったら撤回できません。
後で「やっぱり相続したい」と思っても再度相続人の地位に戻ることはできないので、慎重な判断が必要です。

2-4.期限がある

相続放棄には「期限」があります。「自分のために相続があったことを知ってから3か月以内」に家庭裁判所で「相続放棄の申述」をしなければなりません。
多くのケースでは「被相続人が死亡した事実」を知った時点から3か月をカウントします。
次順位の相続人の場合には「先順位の相続人が相続放棄したこと」を知ってから3か月を数えます。
この期間を過ぎると基本的に相続放棄できなくなるので、相続放棄を検討しているなら早めに対応しましょう。

2-5.法定単純承認が成立したら相続放棄できない

相続放棄したいなら「法定単純承認」に注意が必要です。
法定単純承認とは、該当する事情があると当然に単純承認が成立して相続放棄や限定承認をできなくなることです。
たとえば遺産を使ったり処分したり毀損したりすると、相続放棄はできなくなります。

3.相続放棄すべき状況とは

3-1.資産を上回る負債がある

相続放棄をしても損にならないので、負債を免れるために相続放棄するメリットが大きくなります。

3-2.事業承継などで特定の相続人に遺産を集中させたい

特に事業用の負債がある場合には相続放棄によって対応する必要があります。遺産分割協議で後継者に資産を集中させるだけでは、他の相続人に負債の支払い義務が残ってしまいます。

3-3.海外居住などで遺産相続手続きが面倒

海外居住の方が国内財産を相続すると、遺産分割協議書の作成や不動産の相続手続きで「サイン証明書」が必要となるなど、かなり手間がかかります。国内財産に関心がなければ相続放棄するのが良いでしょう。

3-4.被相続人と疎遠で遺産に関心がない

前婚の際の子どもや認知された子ども、生前ほとんど故人と関わりのなかった甥姪など、被相続人と疎遠で遺産に関心がない方が相続放棄すれば、面倒な遺産分割協議や相続手続きにかかわらずに済みます。

3-5.遺産相続トラブルに関わりたくない

「相続人の中に相続財産を隠していそうな人がいる」「親と同居していた長男と他の兄弟がもめそう」など、遺産相続でトラブルが発生しそうなとき、かかわりたくなければ相続放棄するのも1つの方法です。
特に遺産額が少額であるにもかかわらず相続人同士が感情的に対立しているケースでは、相続放棄のメリットが大きくなるでしょう。

相続放棄を迷っていると3か月の熟慮期間が経過してしまいます。対処に悩まれているならお早めに弁護士までご相談下さい。

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