債務を相続してしまった方へ
- 親が多額の借金を残したまま死亡してしまった
- 疎遠だった兄弟がサラ金で借金したまま死亡した
- 親の死亡後、税務署から滞納税の督促書が届いた
- 故人が家賃を滞納していたらしい…
負債の相続を避けるには相続放棄を含めていくつか方法があります。
今回は負債を相続したときの対処方法について、名古屋の弁護士が解説します。
目次
1.負債は相続の対象になる
借金や滞納税、滞納家賃、滞納水道光熱費などの負債は、すべて相続の対象です。
故人が負債を負ったまま死亡すると、法定相続人は基本的にその負債を払わねばなりません。
法定相続人になるのは、以下の人です。
- 配偶者は常に相続人になる
配偶者以外の相続人は以下の通りです。
- 子どもや孫などの直系卑属が第1順位の相続人
- 親や祖父母などの直系尊属が第2順位の相続人
- 兄弟姉妹と甥姪が第3順位の相続人
上記のような立場の方は、故人とほとんどつきあいがなくても負債を相続してしまう可能性があり、要注意です。
ただし相続人が負債を払わねばならない状況になるのは、相続人が「単純承認」したケースです。
単純承認とは
単純承認とは、条件をつけずに相続をすべて受け入れることです。
資産も負債も権利義務も、相続対象となるものはすべて相続します。
単純相続が成立するのは、以下の場合です。
- 一部の財産を使ったり処分したりした
相続人が、相続財産である預貯金を使ったり不動産を売ったり価値のあるものを壊したりしたら、単純相続が成立して負債を全部相続することになります。 - 相続放棄も限定承認もしないまま相続開始後3か月が過ぎた
相続放棄や限定承認をすれば負債を相続せずに済みます。ただしこれらの手続きができるのは「相続開始を知ってから3か月以内」です。その熟慮期間を過ぎると当然に単純承認が成立し、負債を全部相続せざるを得なくなります。 - 限定承認の申述の際、虚偽の財産目録を提出した
限定承認を適切に進めれば負債は相続せずに済みますが、「負債は負担したくないが資産は受け取りたい」などと考えて虚偽の財産目録を家庭裁判所に提出すると、単純承認が成立して負債を相続せざるを得なくなります。
2.負債を相続する割合について
相続人が負債を相続したら、支払い義務は相続人自身に及びます。複数の相続人がいる場合、誰がどのくらいの負債を負担するのでしょうか?
相続人における負債の負担割合は「法定相続分」と同じです。
たとえば配偶者と2人の子どもが相続人になる場合、配偶者は2分の1、子ども達はそれぞれ4分の1ずつの割合で負債を相続します。
3.相続人が負債を払わなかったらどうなる?
負債を相続した相続人がきちんと支払いをしなかったらどうなるのでしょうか?
3-1.借金や未払い家賃などの一般的な負債
サラ金やカードの借金、銀行ローン、未払い家賃などの一般的な負債の場合、まずは債権者から相続人へ郵便や電話などの手段で支払の督促が行われます。
相続人が支払いをしなければ、債権者は相続人へ「訴訟」を起こします。
判決で支払い命令が出ても相続人が支払わない場合、債権者は相続人の財産を「強制執行」します。すると債務者自身の預貯金や不動産、給料などが差し押さえられます。
相続人がどうしても負債を支払えないなら、自己破産などの債務整理が必要です。
3-2.税金や公的な保険料などの場合
税金や健康保険料などの公的な支払いを滞納していると、さらに状況が悪くなります。
これらの公的な債権の場合、国や自治体は裁判をせずに差押えができるからです。
相続人が支払わないと、相続人自身の財産がいきなり差押えられて取り立てを受けたり公売にかけられたりするおそれがあります。
また税金や滞納保険料等は債務整理によっても減免されません。いったん相続したらよほどの事情がない限り、必ず支払う必要があります。
相続した滞納税などが多額になっているなら、単純承認は何としても避けるべきです。
4.相続債務を免れる2つの方法
相続人が相続債務を免れるには、以下の2つの方法があります。
4-1.相続放棄
相続放棄とは、資産も負債も一切承継せずはじめから相続人ではなかった立場になる方法です。一切の遺産相続をしないので、負債も全額免れます。
また相続放棄は相続人が単独でできるので、他の相続人に知らせたり同意をとったりする必要がありません。
ただし相続放棄すると、次順位の相続人に相続権が移ります。トラブルを避けるため、次順位の相続人には相続放棄することを伝え、相続放棄申述の機会を与えてあげると良いでしょう。
4-2.限定承認
限定承認とは、相続した資産の範囲内で負債を支払う方法です。
限定承認の申述をすると「相続財産管理人」が選任され、その人が資産と負債の清算を進めます。最終的にあまりがあれば相続人が受け取ることができ、あまりがなければ手続きが終了します。負債を相続する必要はありません。
ただし限定承認するには「相続人全員が申述人になる」必要があります。一人でも単純承認したら限定承認できません。
また限定承認の申述の際「少しは遺産をもらいたい」などと思って一部や全部の資産を書き込まずに嘘の財産目録を提出すると、単純承認が成立して全部の負債を相続せざるを得なくなるので注意が必要です。
5.熟慮期間に注意
相続放棄や限定承認をすれば負債を免れますが、これらの手続きには「期限」があります。
「自分のために相続があったことを知ってから3か月以内」に家庭裁判所で相続放棄の申述をしなければなりません。
第1順位の相続人については「相続が起こったことを知ってから3か月」、次順位以降の相続人に関しては「前順位の相続人が相続放棄をして自分が相続人になったことを知ってから3か月」以内に手続きを行う必要があります。
期限を過ぎると相続放棄や限定承認が受け付けず負債を全部相続してしまうため、なるべく急いで手続きしましょう。
相続放棄と限定承認のどちらが良いか迷ったら、弁護士がアドバイスいたします。弁護士が代理で申述手続きを行うことも可能ですので、負債を相続してお困りの方がいらっしゃいましたらお気軽にご相談下さい。