遺産分割10年、相続登記3年の法改正

遺産分割や相続登記についての法改正

施行を控えているのは、改正民法、不動産登記法と相続土地国庫帰属法です。改正民法は2023年4月1日に施行され遺産分割協議に10年の期間制限が設けられます。遺産分割協議には、2023年3月までは期間制限はありませんが、相続開始から10年を過ぎると、原則民法で決まっている法定相続割合で分けることになります。
また、改正不動産登記法は、2024年4月1日に施行され、土地・建物の相続登記が義務付けられます。改正法では、相続開始から3年以内に登記する義務を課し、登記しないと10万円以下の過料となります。

1.遺産分割に関する見直し
1-1.10年を経過すると、特別受益及び寄与分の主張ができなくなること
 当初は、遺産分割の促進の方策として、遺産分割自体に期間制限を設け、期間経過後は、法定相続分又は指定相続分に従って遺産が分割されたものとみなされるという意見がありました。
 しかし、結論として、遺産分割の期間制限の項かとして、具体的相続分の主張ができなくなる、つまり、具体的相続分の算定の基礎として、「特別受益」や「寄与分」の主張をすることができなくなりました。
10年を経過した後に行う遺産分割においては、特別受益及び寄与分の適用は亡くなることから、法定相続分又は遺言書に基づく指定相続分で遺産分割を行うことになります。
なお、10年経過後については、当該共有物の持分について遺産分割の請求がなされず、また、遺産分割の請求がなされていても共有物分割の条文によって分割をすることに異議が出ない限り、相続財産に属する共有物の持分について、共有物分割の条文による分割もできることになりました。(民法258条の2)
10年の経過後に具体的相続分による分割を求める利益について、遺産分割とは別に、不当利得に基づき請求することを認めることはできず、「10年」の期間は除斥期間と考えられています。

1-2.例外的に特別受益及び寄与分の主張ができるパターン
●相続開始時から10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき(民法904条の3第1号)
●10年の期間の満了前6か月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき(民法904条の3第2号)
●10年の期間経過後に、相続人間で具体的相続分による分割をするとの合意がなされた場合

2.施行日から遡って適用されること
施行日は、2023年4月1日です。重要なのは、法改正前に発生した相続・遺産分割にも適用されるという点です。
一般的には、法律は、通常、施行日から遡って適用されるということはありません。
しかし、今回は、所有者不明土地関係を解消するという観点から遡及適用されることになりました。
ただし、「相続開始の時から10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求したとき」との規定は、相続開始の時から10年を経過する時のみならず、2023年4月1日から5年を経過する時のいずれか遅い時まで適用されないという特別ルールが設けられています。
2023年4月1日より5年前、つまり2018年4月1日より昔に開始した相続については、2023年4月1日から5年で具体的相続分主張については除斥にかかることになります。
また、2018年4月1日より後に開始した相続については、相続開始時から10年で除斥になりますので、例えば、2020年4月1日開始の相続については、2030年4月1日で除斥となり、法律の施行日から10年である2033年4月1日ではないことに注意が必要です。
そうはいっても、改正法は、施行日前に相続が開始した遺産分割にも適用されることは要注意といえそうです。
3.10年の期間制限で、一次相続、二次相続という言葉がなくなる?
3-1.一次相続をするのを遠慮していると10年が経過してしまったパターン

夫が先に亡くなり、妻及び子が相続人である場合において、相続人間で、妻が事実上音の遺産(不動産、預貯金等)を使用することとして、夫に関する遺産分割を行わず、妻が亡くなったときに、夫に関する遺産分割も一緒に行う旨の合意があり、妻が父の死後10年間生存した後、父に関する遺産分割をする場合

 実務で時折見受けられる現象
 母が存命の間は、父の相続について特別受益、寄与分の主張をしたいと考えても、母の意向で遺産分割を行わない現象
 母親が存命中に遺産紛争が顕在化することを恐れて、子が遺産分割の申出を控える現象

上記の3つのパターンにおいては、相続開始後10年以内の遺産分割の除斥の制限にかかるものと考えられ、「やむを得ない事由」には該当しないと考えられています。
したがって、今後は、一次相続、二次相続ということにこだわらず、遺産分割において、特別受益、寄与分の主張を予定している相続人は、相続開始後10年に遺産分割の申立てを行う必要性が出てくることになります。具体的相続分主張をするには、10年内に、家庭裁判所に遺産分割の申立てをするべきといえるでしょう。
3-2.遺産の前提問題に争いがあり、10年経過してしまったパターン

遺産分割の協議又は申立てを行ったものの、遺産の前提問題、例えば、遺言書の有効性、養子縁組の有効性、遺産の範囲・帰属に関して争いがある場合は少なくありません。この場合、前提問題で争っている間に、相続開始から10年経過してしまった場合はどうしたら良いのでしょうか。

●これまでの実務では前提問題に争いがある場合は調停委員会から遺産分割事件の取下げ勧告をされることがあった。
今後は、前提問題に争いがあったとしても、「やむを得ない事由」には該当しないと考えられています。
したがって、民事訴訟において、権利関係が確定し、あらためて遺産分割調停等を申し立てたときに、既に相続開始時から10年を経過していた場合は、相続人は、「特別受益」、「寄与分」の主張を行うことはできなくなります。
今後は、前提問題に争いがあるとしても、遺産分割事件の取下げについては、「特別受益」、「寄与分」の主張をするか検討し慎重に行う必要があります。

4.相続登記の義務化
多くの人に影響があるのが相続登記の義務化です。相続の発生が2024年4月1日以降なら、相続の発生から3年以内が期日となります。また、期限に間に合わない場合は、新設される相続人申告登記制度の利用を考えたいところです。つまり、相続人の住所、氏名などを申し出れば、相続開始から3年が過ぎても、過料の対象とならず、登録免許税も非課税となります。
具体的に義務化される相続登記は以下のものです。
●相続を原因とする所有権移転登記
●「相続させる遺言」に基づく相続を原因とする所有権移転登記
●相続人に対する遺贈を原因とする所有権移転登記
4-1.相続開始から3年以内に何をすればいいのか?
 不動産の所有権登記名義人について、相続の開始があり、その相続によって不動産の所有権を取得した者は、「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内」に、所有権移転登記申請や相続人申告登記の申出をしなければならないとされています。
改正法の内容は、相続の開始があって、相続により「不動産」の所有権を取得した者は以下の登記を申請する義務を負うことになります。
●遺産分割の結果を踏まえた終局的な相続登記
●遺産分割を経る前の遺産共有状態を表す暫定的な法定相続分に基づく共同相続登記
●新たに創設された「相続人申告登記」(不動産登記法76条の3第1項第2項)

この点、「遺産分割を経る前の遺産共有状態を表す暫定的な法定相続分に基づく共同相続登記」と「新たに創設された「相続人申告登記」(不動産登記法76条の3第1項第2項)」は、遺産分割の結果を踏まえた終局的な登記ではありません。
このため、遺産分割が行われた場合に、遺産分割によって不動産の所有権を取得した場合、その取得に関しても登記申請義務が課されるので注意が必要です。(不動産登記法76条の2第2項・76条の3第4項)
このように、過料が発生する「公法上の登記申請義務」は、①相続開始に発生するパターンと②遺産分割により所有権を取得した時点で生じるパターンと2つあることになります。
4-2.経過措置-施行日前においても適用
相続登記申請義務付けに関する改正は、既に所有権の登記名義人に相続の開始があった場合についても適用されます。
相続の発生が2024年4月1日以降なら、発生から3年以内が期日となります。
また、既に相続が発生している場合は、2027年3月末までに名義を変更する必要があります。

5.登記申請義務3年のタイムリミットを見据えて遺産分割をする必要性

不動産の登記名義人の死亡によって相続が開始した場合、その相続人としては、相続等による所有権移転登記の申請義務があり、それを怠った場合には過料の制裁があります。
したがって、過料の制裁を前提に、その後の手続の段取りをしていく必要があります。
遺産分割が長引くことが想定されるケースにおいては、この登記申請義務の懈怠による過料の制裁を回避するためには、相続開始の局面における申請義務の履行として、創設された簡易な「相続人申告登記」をしておくことがおすすめといえそうです。
今後は、法定相続分での相続登記はもちろん可能ですが、相対的に手続的負担が軽い「相続人申告登記」が広く普及する可能性があります。なぜなら、手続的負担が軽く、登録免許税も非課税だからです。
また、相続登記や相続人申告登記を暫定的にしていても、その後に遺産分割をした場合には、遺産分割によって不動産の所有権を取得した相続人は、遺産分割の結果を踏まえた所有権移転登記の申請義務が発生することに気を付ける必要があります。
親の土地や家の立地条件が悪く、相続人の中に受け継ぐ方がいない場合は、相続土地国庫帰属法の利用が考えられます。相続の発生時期にかかわらず、施行日から引き取りを申請することができます。例えば、建物がないこと、境界争いがないことなどの要件があり、承認されると管理のために10年分の負担金を納付する必要があります。

お一人で相続の交渉や調停・審判を進めるのは不安があるものです。弁護士がつくと有利に進められるケースも多いので、名古屋で相続・遺産分割の問題にお悩みの方は是非とも一度、ご相談下さい。

2020年1月11日配信

服部勇人(はっとり・はやと)

立命館大学大学院法務研究科実務法曹専攻修了(法務博士、2008年)。

中小企業法務、相続(事業承継を含む)、離婚など、中小企業法と家族法を中心に活動。

愛知県弁護士会所属。

 

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